ハッピーエンダー



その出来事から水樹さんが回復し始めたのは、それから一週間が過ぎた、九月半ばごろだった。彼は私に依存していると思う。吹っ切れたのか私相手ならなんでも話し、甘え方もエスカレートしていた。

大学でも悪い噂が広まり、彼には居場所がなかった。人気者だったはずの彼が孤独になったのに、本人は今の方が自然体で楽だと言う。なにより、母親に会うことをやめ、私といるときは表情が柔らかくなった。


「水樹さんって、そんなにお酒飲まないですよね」

居酒屋の個室に入って一時間。未だに二杯目のビールをちびちびと飲む彼に、ほろ酔いの私はつぶやいた。夏休みも残り二週間。バイト先に迎えに来てもらって、そのままふたりで夕飯がてらサシ飲み、これが当たり前になりつつある。

「べつに好きじゃねぇからな」

「そうなんですか? 出会ったとき酔っ払いだったので、てっきり浴びるように飲むのかなって」

「だからそれは盛られたんだって。母親がアル中だから俺は酔うほど飲みたくない。あんなんなりたくねぇもん」

「そ、そうですよね……」
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