ハッピーエンダー
水樹さんは入場券を買ってホームまで付いてきてくれて、電車がやってくるアナウンスが鳴るまでそばにいてくれた。手を握って並んで立っていたが、電車の光が近づいてくるのが見えると、彼はサッと手を離してポケットへ戻す。
「気をつけろよ、光莉。じゃあな」
「水樹さん……」
彼がホームの階段まで引き下がると、不安でたまらなくなった。本当は実家まで一緒に来て欲しい。でも、そんなわけにはいかない。「すぐ連絡します」と言いたかったが、彼はまだスマホを買っていないため、そう言えなかった。
電車が停まるころ、私が瞬きしたわずかな時間に、水樹さんの姿はフッと消えていた。
やってきた車両を振り返り、扉が開くと、そこにはちょうど兄がいた。
「あ、よかった光莉。間に合ったか」
安心感に襲われ、車両の中に吸い込まれるようにして、兄の手を握る。しかし兄は「お前、ちょっと落ち着けよ」とその手を払った。
そうだった。私は兄の手を握るなんて滅多にしたことはない。仲はよくてもベタベタするような間柄ではなかった。抱きしめて、手を握ってくれるのは、水樹さんだけだったのだ。