ハッピーエンダー

思いつくことをとにかく喋り続けていた最中、突然の彼の言葉に、ピクンと体が揺れた。グワッと胸が熱くなるものの、悔しさが込み上げてくる。どうしていまさら。私とはなにもしないし、恋人にもならないって線引きをしていたじゃない。そういう関係でいようって。

「……な、なに言ってるんですか」

「恋人なら光莉に金を使ってもおかしくないだろ。その店長から学費を借りりゃあいいじゃん。俺もそこで働いて返すから」

「水樹さん……」

水樹さんの生活が、私のせいで余計に八方塞がりになっている。迷惑をかけたくない。そんな形の関係は恋人なんて呼ばないはずだ。

「私、ここを引き払います。水樹さんの住めるところは一緒に探します。ですからもう、私たちは離れましょう」

「光莉」

「住む場所が見つかるまでここにいてください。それからは、二度と会いません」

立ち上がり、荷物の整理を始めた。話はこれで終わりだ。彼は黙り込んでいる。私を抱きしめてくれた彼にこんな仕打ちはひどいだろうか。でも私にはわかる。私のそばにいたら、彼をもっと不幸にする。水樹さんを守っているなんて幻想だった。実際の私は、彼の大切なものを奪いながら、寂しさをまぎらわせていただけなのだ。

さよなら。心の中でそうつぶやいた。水樹さんはふらりと外へ出ていって、それきり、戻ることはなかったーー。
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