溺愛確定 冷徹御曹司とのお見合い事情
「もうお出掛けですか?」
「あぁ」
吉池さんは腕時計に目をやり、続けた。
「悪いな。荷解き手伝ってやれなくて」
「いえ。見られたくないものもあるので」
正直に言うと吉池さんは少し考えたあと理解を示してくれた。
「それで、あの、夕食は?」
靴を履いている吉池さんの背中に声を掛ける。
「なにか作っておきましょうか?」
「ありがとう。だが今日は遅くなるから、楽しみに取っておく。ただし、きみはきちんと食べて。必要なものがあればカードで。分からないことがあれば連絡して。それと」
「なんですか?」
事務的な早口に対して合いの手を入れると吉池さんは振り返り、私を見て言った。
「『吉池さん』呼びはやめよう。きみも吉池になるかもしれないのだから。呼び方考えておいてくれ」
「吉池さんだって私のこと『きみ』としか言わないじゃないですか」
お互い様だというように軽く言うも吉池さんは首を横に振る。
「名前で呼んで良いのならいくらでも呼ぶよ。"絵麻"と」
「え?あ、いや、いいんですけど、まだ『きみ』呼びの方が」
突然呼び捨てにされて気恥ずかしくて視線を下げる。
「分かった。だが、いずれは互いに名前で呼び合えるように。早く俺のことを好きになってくれ」