溺愛確定 冷徹御曹司とのお見合い事情
「ふぅー」
洗濯機が回り終わるまでリビングでサーバーからコップに注いだミネラルウォーターを飲む。
「はぁ。美味しい」
結局、夕飯は食べ損ねてしまった。
動き回っていたことに気疲れも相まって、お腹は空いていない。
他人の家で他人と暮らすことがどれだけ大変なことなのか痛感し、疲弊していた。
例えば今使っているグラス。
汚さないように、と気を使うし、洗濯物も下着を見られないように、洗濯が終わったら乾燥機に入れて、乾くまで待つつもりだ。
そうなるといったい、何時に寝られるのだろう。
家事は好きで、母と一緒に料理や掃除をしていたけど、全てをひとりでやるとなると勝手が違うし、いかに親に世話になっていたのかを実感する。
思い出したら急に実家が恋しくなってきた。
そういえば今日、実家を出る時、母の目に涙が浮かんでいたっけ。
『絵麻が嫁に行く時の予行練習になったってさ。今は夫婦水入らずで旅行に行く計画立ててる』
兄からの連絡に安堵半分、寂しさ半分だ。
いや、今いる広い部屋が寂しさを助長してくる分、やっぱり寂しさの方が割合的には多い。
吉池さんは普段、どのようにして過ごしているのだろう。
いつもこんなに帰りが遅いのだろうか。
初日の今日に限ってはすっぴんパジャマ姿を晒したくないから、乾燥機が止まるまで帰宅しないでもらいたいというのが本音だけど、休日までしっかり仕事しているなんて、体は大丈夫なのかと心配になる。
「そうだ!」
まだ時間もあることだし、とキャリーバッグの中から目当てのものを取り出し、それを机の上に置いておいた。