溺愛確定 冷徹御曹司とのお見合い事情
「ところで今日はお休みなんですか?」
食器を片付けながら、ソファーで新聞を手にしている吉池さんに聞くとお昼前から出社しないといけないと言う。
「本当にお忙しいんですね」
「すまない」
「いえ」
忙しいというのは事前に聞いていたことだし、それが理由で同棲生活が提案されたこともちゃんと理解している。
ただ……
「出かけたいところがあったか?」
吉池さんはアイランドキッチンから見える大きな窓の方に私が視線を向けたことに気づいたようだ。
「もしお休みだったら」
そう前置いて話す。
「昨日の天気予報で桜の見頃は今日か明日まで、と言っていたのでお花見にでも行きたいなと思っていたんです。でも大丈夫です。買い物がてら見てきますので」
「それはダメだ」
即座に否定されて、微笑んでいたはずの口元が引きつる。
「どうしてダメなんですか?」
様子を伺いながら聞くと、吉池さんは新聞を閉じて、ソファーからこちらを見ながら真剣な顔で言った。
「花見は人混みの中だし、ナンパもあるだろうからだ」
「え?いや、アハハ。それはないです。絶対に大丈夫ですよ」
笑ってしまうくらい心配のない心配だったので、お皿を食洗機に入れながら続ける。
「生まれてこのかたナンパされたこと一度もないんです。むしろ一度くらいされてみたいくらいです」
「なぜだ?」
ナンパされた後どうするかはさておき、声を掛けられるというだけで『私もまだまだ捨てたもんじゃない』って自信に繋がる気がするから。
でもそんなこと言っても分かってもらえない気がしたし、社交辞令の否定は要らない。
なにより自分を卑下するようで悲しくて、矛先を吉池さんに向けることにした。