溺愛確定 冷徹御曹司とのお見合い事情
昨日の朝、話していたことを覚えていてくれたんだ。
些細なことでも気を配ってくれる。
そんな吉池さんの気持ちが素直に嬉しくて、素早く髪とメイクを整えてからマンションを出ると、ちょうど一台の外車が停まった。
ジッと見ていると、左側のウインドーが下がり、そこから吉池さんが顔を出した。
「あ、お仕事お疲れ様です」
「これ、今から停めて荷物置いて来る。寒いだろうから中で待っていてくれ」
たしかにもうすぐ四月だと言っても日が落ちた時間は肌寒い。
手に持っていたストールを首に巻くことで暖をとり、吉池さんが戻るのを待つ。
「寒かっただろう?」
背後から声を掛けられ、振り向くと吉池さんがトレンチコートを羽織りながらやって来た。
「大丈夫です」
首に巻いたストールに手を触れると、吉池さんは納得したのか柔らかく微笑み、頷いた。
「じゃあ、行こう。はい」
吉池さんは私の目の前に手を差し出してきた。
「ナンパなら本当に大丈夫ですよ」
「いや。男除けと自慢を兼ねて、だ」
どちらもピンとこなくて反応に困っていると、吉池さんは私の手を取り、ゆっくりと桜並木の方へと歩き出した。