飼い犬は猛犬でした。
え……好き……?
わたしが?
てことは、さっきの言葉は本当だったってこと? てっきりそういうフリだとばかり思っていた。
す、好きって……
わたし、彼と話したことなかった……はず。
常連のお客様でもないみたいだし、もしかして新手のナンパ……?
「えっ、ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げると、彼はシュンと仔犬のような表情になる。
「なんでっすか……俺じゃダメっすか?」
「だって……あなたと話すの初めてだから……。ダメとかじゃなくて……」
”ダメとかじゃなくて”その言葉に反応したのか、さっきとは打って変わって、キラキラとした表情になる彼。
この人は……表情がコロコロ変わるんだぁ、なんだか少し可愛いかも……
と、クスッと思わず笑みがこぼれる。
「……っ! いきなり笑うの禁止っすよ!」
「ご、ごめんなさい。可愛いな……って」
「何言ってんだよ……可愛いのは先輩の方じゃないっすか……」
彼は頬を染めてからそう呟いた。
あれ、わたしのこと好きって……本当なの……?
でもそんなわけ、あるはずない……
だってこのわたしは偽物だから。