飼い犬は猛犬でした。


「な……なによそれ! 私の方がその女より可愛いわよ!」
「……は? てめぇ……」

 その瞬間、その女子は涼輔くんの胸板を強く押した。
 突然の出来事でバランスを崩した涼輔くんはそのまま……


 ……危ない!



「いた……っ」


 頭を打ってはいけないと、わたしはなんの考えもなしに涼輔くんの方へと飛び込み、見事下敷きになった。


「……っ、何すんだよ……」

 涼輔くんは床に手を着くつもりが、床とは明らかに違う触り心地に驚き、勢いよく下に目線をやる。


「……っ?!」

 大きく目を見開いたあと、即座にわたしの上から退く。

「な、何で……じゃなくて……! あっ……す、んません……」

 涼輔くんは目を見開いたまま謝り、手を差し伸べてくれた。


「あ、ありがとう……」
「何で俺なんかにこんな……」

 差し伸べられた手を取ると、涼輔くんは遠慮がちに目を逸らした。

 何でって……分からないよ……気が付いたら飛び込んでた。


 あの時、涼輔くんがわたしを助けてくれたようにわたしも涼輔くんを助けたいと思ったんだ。


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