飼い犬は猛犬でした。
 そんな……
 ”どうでもいい”ときっぱりと言われると、困惑する。

「はぁ……床に擦れて怪我とかしてないっすか?」


 涼輔くんはため息をついてわたしの頬に手を添えた。

「……っ」


 突然触れられ、体がびくりと跳ねる。
 やだ、見ないで……

「ご、ごめん……でも離れて、こんなの……誰かに見られたら勘違いされるよ……?」
「勘違い? ……先輩、何も分かってないッスよ……それに、なんつー表情(かお)してるんすか……」


 え……
 違うよ、それはわたしのセリフ。
 熱を帯びたような目で真っ直ぐとわたしの目を捕える涼輔くん。

 こんなの……やめて……

「……先輩、もう知りませんからね。そんな表情、俺の事……」


 徐々に近付いてくる涼輔くんの顔に、わたしの顔は赤みを増す。


 この先を見るのが怖い……どうなってしまうの? 
 ――キス……しちゃうの……?
< 35 / 96 >

この作品をシェア

pagetop