飼い犬は猛犬でした。
「……っ!」
汗だくになりながら入口に向かってきた姿を見て、思わず厨房に隠れる。
涼輔くんだ、どうしよう……
なんで来たの? いや、メイドのわたしに会いに来たのか……
でも、冷静に考えたら他の女の子とキスしたその日に、よく会いに来れるよね……?
「おかえりなさいま「あの、天音さん呼んでください」
「あの……天音先輩は他のご主人様の対応中で……」
「……この店でいちばん高いもん頼めば俺ん所来てくれますか?」
「えっ、あの……そ、それは……」
まさかの涼輔くんの返しに、困ったようにこちらに視線を送る後輩ちゃん。
見るに堪えない、わたしのせいで後輩ちゃんを困らせてる……そう思うと居てもたってもいられなくなって……
「涼輔くんごめんね、どうしたの……?」
何事もなかったかのように、ニコリと微笑んだ。
そう、キスをしたのは別の人……今はわたしじゃない。
「……ちょっと来てください」
「えっ、涼輔くん……!」
涼輔くんに強く腕を引かれて店を出る。
いつもの優しい涼輔くんからは想像できない程、無理矢理で……