飼い犬は猛犬でした。


「俺、天音さんが好きです。付き合って下さい」


 涼輔くんはわたしを壁に追いやると、真剣な表情でそう言った。


 もう分からない、こんなのやだ……信じられない、みんなに優しくて誰にでもキスして……そんな涼輔くんとは怖くて付き合えない……。


 それなのに「好き」の一言で胸が締め付けられるほど苦しくなる。

 涼輔くんの優しさも、キスも、甘い言葉も……全部本当は嫌じゃないから困る。



「やだ……やだよ」
「何でですか……俺の気持ち、まだ伝わんないですか?」


「分かんないよ……だって、こんなの皆に言ってるんでしょ……?!」


 わたしが投げやりにそう言うと、涼輔くんは分かりやすくムッとした。


「それ、本気で言ってるんですか? 本気で……自覚してないんですか?」


 だって、本当にそうなんだもん……本当に誰だっていいんでしょ?
< 39 / 96 >

この作品をシェア

pagetop