飼い犬は猛犬でした。

「貴方……先程の……」

「真行寺涼香、です。えっと……」
「佐々木凛です」

 佐々木さんは相変わらずわたしに疑いの目を向ける。

「貴方は、涼輔君の何なんですか?」

 冷たく放たれた問いかけに胸が痛む。
 何……って、何でもないからこんなにも苦しんでるのに。

「涼輔くんは……バイト先の常連さん、それだけ……」

 声に出して言うと、辛さは何倍にも増す。
 言うことによって、いやでも実感させられるから。

「そうでしたか、それは失礼致しました」

 丁寧に頭を下げられ、少し困惑した。
 凄く礼儀の正しい子だ……



「ですが、もう涼輔君には近付かないで下さい」


 真っ直ぐと突き刺すように放たれた言葉に、何も言い返せない。

 こう言われてしまえば、従うしかない。
 だって、わたしが彼女だとしたら、同じように嫌だ……気持ちは凄く分かる。

 

「うん……分かった」


 そう答えると、佐々木さんは安堵したように「ありがとうございます」と言って、その場を立ち去った。


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