飼い犬は猛犬でした。


 それからわたしは、涼輔くんを見かける度に気付かれないように物陰に隠れたりなんだりと、涼輔くんを避けるようになった。

 鉢合わせて気まずくなるくらいなら、もういっそ会わなければという策略。

 でも、見た感じ佐々木さんと涼輔くんは一緒にいないみたい。

 何かあったのかな? それとも……学校では恨みを買うからあまり近付かない事にしているのかな?

 涼輔くんを避け始めて2週間、もうそれが日常になり始めていた頃、事件は起きた。


 バイトは体調不良を理由にしばらく休暇を貰い、会わないように徹底していたにも関わらず、その時は来てしまった。


「あ……」


 偶然にも、ばたりと廊下の角で鉢合わせてしまった。

 久しぶりに涼輔くんをこんな距離で見たな……なんて悠長なことを考えていた。
 
 相変わらず整った顔……
 目元はキリッとしてて、ふにふにしてそうな唇が特徴的で……男子にしては少し長めな髪はサラサラしていて。

 今まで彼女いなかったって方がおかしいくらい。

「久しぶり……ッスね、なんか間、悪かったみたいで全然先輩の事見かけねぇなって……」

 寂しげな表情で呟く涼輔くん。
 そんな顔で……やめてよ、わたしになんて会わなくても、彼女がいるんでしょ……?

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