勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「じゃ、いつもの場所にいるから、千里も来てよ?」




……千里?




その名前に、どきりと心臓が飛び跳ねる。




まさか、九条さん?




校舎から出てきた人たちを、建物のかげからそっと確認すると。




ひときわ背が高くて、



爽やかなまなざしで



キラキラして目立っているのは




……九条さんだ!




まさか、本当に会えるなんて!




九条さんは、時折、手もとのレポート用紙に視線を動かしながら



首をかしげて、お友達と真剣に話し合っている。




やっぱり、九条さん、カッコいいなあ……




凛とした眼差しも、その仕草も、



九条さんのすべてがキラキラと輝いて見える。




でも、九条さんの仕草や言葉を交わしている雰囲気が、



いつもと少し違う気がするのは気のせいかな?




すると、九条さんの隣を歩く女の人が、



九条さんの腕に手をかけ、肩に触れる。




栗色の長い髪を緩くまとめたその女の人は、



九条さんの隣がよく似合う。




そっか、



大学にはあんなに綺麗な女の人がいるんだ……




お化粧も仕草も身に着けているものも、



私とは全然違う。




大人の女のひとだ。




現実を目の当たりにして、



ずしっと気持ちが沈んでいく。




なんだか九条さんが遠い……




でも、これが九条さんの日常なんだ。




しゅんと肩を落としたそのとき、



トントンと肩をたたかれた。




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