勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
びっくりして顔を上げると、



九条さんと視線がぶつかる。




「い、いや、でも、彩梅はまだ」




「お、お父さんっ!」




アヤメって自分で言っちゃってるし!




「あ、やめ?」




「真桜はその、『あやめ』の姉でして…」





お母さんが慌ててとりつくろうと、



九条さんが小さく笑って、



恐ろしいことを口にする。





「もし、このあとご予定がないようでしたら、



お昼を“真桜さん”とご一緒してもよろしいでしょうか?」





「いや、でも、残念ながら、



私はこのあと仕事が入っておりまして」





「それなら、是非、お昼は“真桜さん”とふたりで。



責任をもって、



遅くならないうちにご自宅までお送りします」




ど、どうしようっ!




ふたりきりなんて、絶対に無理っ!




「いいじゃないですか、せっかくの機会ですし」




ご機嫌な九条さんのお父さんと、



激しく動揺しているうちのお父さんを交互にみつめて、



心のなかは大パニック!





お、お母さん、座ってるだけでいいって、言ってたよね⁈





ふたりきりなんて、聞いてないよっ⁈





すると、九条さんににっこりと笑いかけられて、



びくりと飛び跳ねる。




「是非、真桜さんとふたりのお時間をいただきたいのですが」




ううっ、ごめんなさい。




私は真桜ではありません……



なんて、今さら言えなくて。




「なんと、うちの息子は真桜さんを気に入ったようだ! 



これはめでたい! 



さすが西園寺家のご令嬢! 



それでは、向こうで私たちは仕事の話でも」




ご機嫌な九条さんのお父さんに押し切られるようにして、



顔面蒼白のお父さんは別の部屋へと消えていった。




すがるようにお母さんに視線をおくると……




「楽しんで」




余裕の笑みを残して、お母さんまで席を立ってしまった。





うそ~~~……





静かな部屋に九条さんとふたりで残されて、



鹿威しの音だけが鳴り響く。




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