勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
これは、もう、黙っていることなんてできない。




「あの!」




声をかけたところで、九条さんが立ち上がった。





「外、歩こうか」




「え?」




「ここじゃ、話しづらいでしょう?」




「……は、はい」




立ちあがり、背の高い九条さんの後ろをついていく。




目の前を歩く九条さんは、



背筋が伸びていて、歩く姿がすごくキレイ。




ちらりと九条さんを見上げて、



その破壊力抜群の横顔に、ぴょんと心臓が飛び跳ねる。




柔らかな物腰とか何気ない仕草とか、



目を伏せたときのちょっとした表情とか!




洗練された大人の男のひとって、



きっと九条さんのような人のことを言うんだろうな。




高校生の私とは住む世界の違う、



キラキラ輝く大人の男のひと。




ふたりで庭園を歩くいていると、



痛いほどに周りの視線が突き刺さる。




すると小さな池に渡された太鼓橋にさしかかったところで、



九条さんが手のひらを差し出した。




「ここ、滑りやすくて危ないからつかまって。着物だから、なおさら」




「だ、大丈夫です!」




「本当に?」




「うっ……」




ゆるりとせり上がる太鼓橋は、ものすごく滑りやすそうで、



着物で歩きやすいようには、



とても見えない。




「はい、どうぞ」




柔らかな笑顔で手のひらを差し出す九条さんと、



目の前の太鼓橋を交互に見つめる。




うう、困った。




「転んだら、大変だよ」




じっと見つめられて、




差し出された大きな手の平にそっと指先を添えたものの。




ドキドキしすぎて心臓破れちゃうよ……!




「さっき、ここから、キミのことが見えたんだ」




九条さんは穏やかに微笑んでいるけど、



正直、それどころではありません!




とにかく今は、転ばないように足をすすめることで精一杯。




指先が九条さんの手のひらに触れていて、



ドキドキしすぎて胸は苦しいし、



顔は熱いし!




なんとか無事に太鼓橋を渡りおえて



ホっとしたところで



九条さんと目が合った。




き、緊張した……!




すると、九条さんがゆったりと口をひらく。




「西園寺、……彩梅、さん?」




「はい」




こくんとうなづくと、



イタズラな顔で笑っている九条さん。。





……あれ?




どうして笑ってるんだろう?




首をかしげて考えて。




あっ……! いけないっ!




ぱっと両手で口をおおった。




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