勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「そもそも、知らないやつに声かけられたら、



無視しなきゃダメだろ?」




校門で学ランの男の子に話しかけられたことを、



まだ怒っている様子の九条さん。




「でも、名前を呼ばれて無視するのは、



さすがにどうかと」




「つうか、あいつはどうして



彩梅の名前を知ってたんだよ」




「さあ? どうして知ってたんだろうね、コタロウ?」




前を歩くコタロウの背中に問いかけると、



コタロウが首をかしげて振り返る。




うん、可愛いっ!




「つうか、ほかの男に近づくなって言っただろ」




「近づいてないですよ?



なんだか最近の九条さん、うちのお父さんみたいです」





「……それは、あんまり嬉しくない」





眉をしかめる九条さんに、クスクスと笑う。




コタロウを連れて九条さんと並んで歩いていると、



この時間がずっと続けばいいのに、



なんて思ってしまう。




「親父さん、最近は?」




「相変わらず機嫌が悪くて、気が重いです」




理由を聞いても教えてくれないし。




「彩梅のことが可愛くてたまらないんだろうな」





そうなのかな?




とてもそんな感じには見えないけれど。




「私はお姉ちゃんみたいに期待されることはなかったから、



そういう意味では楽だったけど……」




九条さんとコタロウと歩く河川敷が、



夕陽に染まっていく。



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