勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「彩梅、本当に俺のところにくるか?」




その瞬間、コタロウに飛びつかれて、



コタロウを受け止めながら首をかしげる。




「どこに、ですか?」




「……なんでもないよ」




「ごめんなさいっ。



コタロウくんの勢いがすごくて、よく聞き取れなくて」




すると、九条さんが苦笑い。




「コタロウに、やきもち妬かれたな」




「コタロウがやきもち? そうなの?」




しゃがんでコタロウの頭をなでると、



甘えた様子でコタロウが湿った鼻をおしつける。




「コタロウも彩梅のことが大好きだってさ」




頭上では、九条さんが空を仰いで、



聞き取れないほどの小さな声で呟いている。




「バカだよな。



彩梅に広い世界を見せてやりたい、



いろんな経験をさせてやりたいって思ってたのに」




「九条さん?」




「矛盾のかたまり」




「どうしたんですか?」




コタロウと同じ目線から、九条さんを仰ぎ見る。




「なんでもないよ」




九条さんを見上げる視線と、



九条さんが私を見下ろす視線がからんで、



九条さんのおおきな手のひらがそっと私の頬をなでる。





「か、顔、また赤くなってますか?」




「そうじゃないよ」




甘く笑った九条さんの指先が、つつっと私の首筋をすべって。




ひゃっ!!




くすぐったくて、身を縮めると。




「彩梅、キスする?」




……え?




< 156 / 250 >

この作品をシェア

pagetop