勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「ホントはさ、俺も今日、断るつもりでここに来たんだ」




そういえば、



九条さんもお見合いに乗り気じゃないって、



お母さんが言っていた。




「俺もまだ学生だし、



勝手に許嫁なんて決められてムカついてたから



会うだけ会って、断るつもりだった。



だから君が責任を感じる必要はないよ」




強く吹いた風に、桜の花びらで視界が桃色に染まる。




その隙間から見える九条さんの優しい笑顔に、



ドキッと心臓が飛び跳ねた。





「君のお姉さんは賢いよ。



このしがらみから逃げ出すには、



日本から離れるのが一番だから」




九条さんは、



お姉ちゃんの選んだ道を、認めてくれるんだ……




そんな九条さんに、心がぐっと近くなる。




「お姉ちゃん、昔からすごく優秀だったんです。



でも、そのせいで、お父さんからの重圧がすごくて、



やりたいことをたくさん我慢させられてきたんです」





気の強いお姉ちゃんが、部屋で泣いているのを何度も見てきた。





「よほどお姉さんに期待してるんだな」




「私がお姉ちゃんの代わりになれるくらい、



優秀だったら良かったんですけど」




そしたらお姉ちゃんの負担も、減らしてあげることができたのに。




「キミのお父さんは、



キミのことが可愛くてたまらないんだろうな。



まさか顔を合わせて10分で終了だなんて、



さすがに思わなかった」




「そ、それは、私が……ひゃあっ!」




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