勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
疲れてたのかな……




長いまつげが、



呼吸に合わせてゆっくりと揺れている。




九条さんの唇は薄く閉じられていて、



男の人なのに肌がすごく綺麗。




ドキドキしながら見つめていると、



パチっと九条さんが目を開いた。




わわっ!




盗み見していた後ろめたさから、



慌てて教科書に視線をもどす。




「悪い、寝落ちた。朝方までレポートやっててさ」




九条さん、そんなに疲れてるのに、



私の勉強見てくれてるんだ……




それなら、私も本気で頑張らないと!




すると、ぼんやりとした目つきで



九条さんの指先が、私の髪に触れた。




あれ、寝ぼけてる……のかな?




「変な夢を見た。全然、彩梅に声が届かなくて、



彩梅、すげえ泣いてて。



でも、なにもしてやれなくて」




苦しそうに呟く九条さんに、笑顔を見せる。




「私、泣いてないですよ?」




「良かった。ここにいてくれて」




「大丈夫です。私は、ここにいます!」




九条さんが許してくれるのなら、いつまでも!




「彩梅、もし……」




「はい?」




九条さんの熱を帯びた瞳に、息をとめる。




そのとき、九条さんの肘が教科書を押して、



机の上からバサバサっと教科書が落ちた。




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