勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
パッと顔を上げた彩梅が、



きょろきょろとあたりを見回して動きを止めると、



目を見開いて駆け寄ってきた。




「九条さん⁈ どうしてこんなところに?」




真っ白い彩梅の頬っぺたがすぐに赤く染まって、



目がくるくると輝き始める。




きっと尻尾があったら、



ちぎれんばかりに振ってるんだろうな。




ちょっとだけその姿を想像して、


思わず吹き出す。




「どうしたんですか?」




「いや、やっぱりコタロウに似てるな、と思って」




「コタロウに? わわっ! 嬉しい!」




だめだ、面白すぎる。




笑いながら思わず彩梅の頭をなでると、



彩梅の顔がさらに赤く染まっていく。




そんな彩梅を、



男子高校生の目から隠すように両腕で包んだ。




「あ、あの、九条さん!」




「ん?」




「み、みんな、見て……ます」




「え?」




顔を上げると、



彩梅と同じ制服を着た女子高生の注目を集めている。




「とりあえず、家まで送る」




彩梅の手をとり、ざわつく改札を通り抜けた。




「あ、あの、く、くじょ」




「どうした?」




振り返ったところで。




「ひゃっ!」




いきなり階段を踏み外した彩梅を、



ひょいっと片手で抱きかかえる。




あっぶねえ……




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