勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
みんながそれぞれの駅で降りて



ひとりになったところで、



空いている座席に座って目をつぶる。




テスト勉強で寝不足が続いているせいか、



電車の揺れがいつも以上に心地よくて、



耳に届くまわりの声ですら、まるで子守歌。




うとうとと気持ちよく眠りかけたところで。




「ねえねえ、九条くんの話、聞いた?」




「あー、女子高生と婚約ってやつ? 



大学内でイチャついてたんでしょ。ショックなんだけど」




どこかから聞こえてきた会話に、一気に目が覚めた。




「相手の子、家がかなりの名家らしくてさ、



いきなり大学まで押しかけてきて大変だったみたいだよ」




「親に言われて形だけ、って話だよね?」




「うわ、九条くん、気の毒! 拒否権なしってこと⁈」




そっと顔をあげると、すぐ近くで



女子大生らしき女の人たちが輪になって話している。




「九条くん、一番嫌いじゃん。家のため、とかさ」




「忙しいこの時期に、妙な足かせ嵌められて可哀そう~」




ぎゅっと制服のプリーツスカートを強く握る。




こんなの、いい加減な噂話だって分かってる。




私は、私の知ってる九条さんのことを信じているから、



それでいい。




でも、……足かせ。




その言葉が、心に刺さった。




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