勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「彼氏じゃないよ」




あっさりと否定した九条さん。




……期待した私がバカでした。




「じゃ、どんな関係……?」




「親戚のおじさんです!」




ぷくっと頬っぺたを膨らませて呟いた。




「は?」




ぷいっ。




「失礼します!」




「ちょっと待てよ、彩梅!」




もう、九条さんのことなんて知らないんだから!




「おじさんってなんだよ、それ!」




「だって、彼氏じゃないし、



本当に婚約してるわけでもないし!」




唖然としている九条さんを無視して、スタスタと歩き始める。





「なにをそんなに怒ってるんだよ?」




「怒ってません! 



九条さんこそ、こんなところでなにをしてるんですか!」




「迎えにくるって言っただろ」




「ひとりで帰れます!」




「彩梅が変な男にからまれてないか



心配して来てみたんだろ。



そしたら、ホントに声かけられてるし」




「たまたまです!」




「それにしても、親戚のおじさんはひどいだろ」




「だって……」




「ほら、荷物かせよ」




ひょいっと私から荷物を奪うと、



九条さんが私の頭をぽんぽんたたく。




「どうした、お姫様はごきげん斜めか?」




くうっ……




ちらりと見上げると、



九条さんは目じりを優しくさげて笑っていて。




こんな甘い笑顔を向けられたら、



怒ってることなんてできなくなっちゃうよ……




「どうした、彩梅?」




私に向けてくれるこの笑顔は本物。




だから、私はそれでいいはずなのに。




さっき電車のなかで耳にした話が、頭から離れない。




なんだかもう頭のなかは、ぐちゃぐちゃ。




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