勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
門が見えたところで、駅に戻ろうとした九条さんを引き留める。




「お母さんが、つぎこそご飯を一緒にって、楽しみにしていて」




「今日は遠慮しておくよ」




「部屋も綺麗に片付けたんですよ?」




その一言に、九条さんが少ししゃがんで目線を合わせる。




「あのさ、男を部屋に誘ったり、部屋に入れたりしちゃダメだって言っただろ」




「ほかの人を部屋に入れたりしないです」




「俺のことだって、簡単に信じちゃダメなんだよ。俺だって男なんだから」




「でも、九条さんはその……婚約者、だから」




「婚約者だろうと友達だろうと、



そんな表面的な言葉だけで



相手のことを信じちゃだめなんだよ。



もっと疑えっつうの」




……表面的な言葉。




そんな言い方されたら、



さすがに傷つく。




私だって、



本当はこんな形じゃなくて、



もっと普通に出会いたかった。




「どうした、彩梅?」




「婚約者じゃなくて……」




「え?」




「九条さんが、彼氏だったら良かった。



形だけの婚約者なんていらない。



普通にどこかで出会って、



好きになって。



そういう、普通の……



家柄とか、おじいちゃんとか、



関係なく……」




だめだ、止まらない。




こんなこと言ったら、



九条さんのことを困らせるだけなのに。




いつか会えなくなる日が来ても、



今、この時間を一緒に過ごせるのなら、



それでいいと思ってきたのに。




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