勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「彩梅、どうした?」




花江ちゃんが、うらやましい。




九条さんと同じ大学に通える女の人が、うらやましい。




九条家とか西園寺家とか家柄に関係なく、



九条さんと出会えるひとがうらやましい。




こんなの、ただのわがままだって分かってる。




駄々をこねてるだけで、



欲しい答えがもらえないことも分かってるの。




でも、足かせになってしまうような関係ではなくて、



普通に出会って、



九条さんと笑い合いたかった。




じっと地面を見つめていると、



九条さんの両手に抱えこまれて、



ぽんぽんと九条さんの手のひらが



背中で跳ねる。




「どうした、彩梅。



今日はなんだかおかしいよな。



なにかあったのか?」




九条さんの腕のなかで、



ぎゅっと唇をかみしめる。




「言いたくなかったら言わなくていいし。



吐き出して楽になるなら、聞くし」




九条さんが優しすぎて辛い。




こんなに優しくされたら、



離れることなんて出来なくなっちゃうよ。




「……か?」




「え?」




「わがままばかり言ってるから、



私のこと、嫌いになりましたか?」




「嫌いになるはずないだろ。



ぐずってる彩梅も可愛いよ」




ぐずってる……?




「私、子供じゃないです!」




「わかってるよ」




九条さんはくすくすと余裕の笑顔で、



いつまでたっても私は子供扱いされてばかり。




「じゃあな、彩梅」




遠く離れていく九条さんの背中に、



胸の奥がぎゅっと痛んだ。





< 190 / 250 >

この作品をシェア

pagetop