勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
大学生になって



ツツジの紅色が歩道を彩りはじめたころ、



梅の柄の着物が本家から届いた。




「彩梅にはまだ早い」




会社に行く間際のお父さんが、不機嫌な声を響かせる。




「……お父さん、朝から機嫌悪かったね」




和室にいるお母さんに声をかけると、



お母さんは、見慣れない着物を



桐の箱にしまっているところだった。




「お母さん、この着物は?」




「この着物はね、あなたにって本家から届いたの」




「すごくキレイな振袖だね」




淡い若葉と白梅が鮮やかな若草色の振袖。




どうしてなのか、



その振袖を見て九条さんの横顔を思い出す。




「あなたにね、お見合いの話があるの。



無理に、とは言わない。



あなたが決めればいいと思う」




そっと着物を手にとると、



正絹の袖がするりと手のひらを滑る。




「お母さんもお見合い結婚だよね」




「そうね」




「お母さんは今、幸せ?」




「ちょっと強引でわがままなところもあるけど、



お父さんも悪いひとではないのよ」




くすりと笑ったお母さんは、



すごく優しい顔をしている。




「お見合いも、出会いのひとつよね。



運命的ではないかもしれないけど」




お見合いも出会いのひとつ……




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