勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「……話してないこと?」




大きくうなづいた九条さんの瞳を、



じっとのぞきこむ。




「彩梅ががうちの大学に来たことがあっただろ。



あのとき、俺たちの婚約はもう白紙になってたんだよ」




で、でも、あのとき、婚約者だって紹介されて……




手をつないで、大学を歩いて……




「俺たちが頻繁に連絡を取り合ってることを知ったじじい達が、



調子にのってすぐにでも入籍させようって



騒ぎ立てたんだよ。



それに怒った彩梅のお父さんが、婚約破棄を決めた」




……うちのお父さんが婚約破棄を?




「けど、じーさん達は入籍に乗り気だったから、



婚約破棄は一旦保留になった。



もう、めちゃくちゃだったんだよ。



婚約破棄か入籍の二択って、



どう考えてもおかしいだろ。



その頃から、まわりに振り回されずに


彩梅と一緒にいるためにはどうしたらいいのか、



ずっと悩んでた」




私と、一緒にいるために……?




九条さんの甘い眼差しに包まれて、



心臓がどくんと鳴る。




「突然、彩梅のお父さんから婚約破棄を言い渡されて



身動き取れなくなってたときに、



彩梅が大学に現れた。



彩梅に会えて


なにも考えられなくなるくらい嬉しかったんだよ。



あのとき婚約者って公言したのは、俺なりの覚悟だった」




「覚悟……?」




「そうだよ、彩梅を諦めないっていう覚悟」




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