勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
そっと触れた唇は、



ほんの一瞬のことなのに



時間が止まってしまったように



長くて、甘くて、優しくて。




震える指先をぎゅっと握りしめる。




「好きだよ、彩梅。



彩梅が思ってるよりずっと、俺は彩梅のことが好きだよ。



出会った瞬間から、気持ち全部持ってかれてた」




心臓は痛いくらいドキドキしていて、



もう言葉なんて出てこない……




婚約破棄を受け入れたときの九条さんは



すごく落ち着いていて、



婚約破棄が決まってホッとしてるのかなって、



ちょっとだけ思った。




そう思ってしまうことが悲しかった。




ずっと私だけが、好きだと思ってた。




「この先も彩梅と一緒にいるためには、



まわりに振り回されるような関係じゃ



ダメだと思ったんだよ。



家とは切り離して、



彩梅とふたりの将来を真剣に考えたかった」




「せめて、教えてほしかった……」




「そしたらタガが外れて、



理性なんて保てなくなってたよ。



俺だってそんなに大人じゃない」




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