勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
そっと唇をはなすと、



熱を帯びた九条さんの瞳に囚われる。




「彩梅と離れてる間、



どこにいても、いつも彩梅の姿をさがしてた」




心臓の音がばくばくと全身に響いて、



必死に気持ちを落ち着かせる。




「俺はさ、彩梅のことが、可愛くてたまんないんだよ。



すぐに顔を赤くする彩梅も、ムキになる彩梅も、



ぐずる彩梅も可愛くてたまんない」




「……ムキになるとか、ぐずるとか、



私、子どもじゃないです。っんん!」




抗議する間もなく、また唇が重ねられた。




「く、九条さんっ⁈」




「ずっと彩梅に会いたかった」




何度も重ねられる九条さんの唇に、頭のなかはもう真っ白。




涙のにじむ目で九条さんをじっと見上げて、



気持ちをつむぐ。




「私は九条さんじゃなきゃ、嫌なんです。



私は、九条さんの言うように



まだ広い世界は知らないかもしれない。



これからたくさんの人に出会っていくんだと思う。



でも、それを九条さんの隣で経験していきたい。



もう離れて過ごすのは、嫌です」




「もう離さないよ」




九条さんの甘い唇が、頬にまぶたに降り注ぐ。




ううっ。




恥ずかしくて、顔あげられない……




すると、むぎゅっと九条さんの胸に顔を押し付けられた。




「顔、絶対に上げるなよ」




「……?」




「俺だって、照れる」




そんな九条さんに、



笑いながらぎゅぎゅっと抱き着いた。



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