勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「……どういうこと?」




九条さんの低い声に、ぎゅっと唇をかみしめる。




九条さんはすごく、素敵なひとだと思う。




抜群にカッコよくて、優しくて、



一緒にいるとすごく楽しくて。



すれ違う女の人みんなが九条さんのことを見ていた。




でも、そんな人が、


なんの取柄もない高校生の私を


相手にしてくれるはずがない……




どこにいても九条さんはものすごく目立っていて、



私は全然つりあってない。




「彩梅?」




お父さんには黙ってるように言われたけど。




「ごめんなさい! 私、あの、まだ高校生で、とても九条さんと……」






「―――――――は?」






あ然としている九条さんに、改めて自己紹介。




「あ、あの、西園寺彩梅、女学院高等科の3年です」




「ごめん、ちょっと意味がわかんないんだけど。


つまり、……彩梅は高校生?」




「は、はい」




「……マジで?」




「マジです」




「あのさ」





「はい」




じっと九条さんと見つめ合う。




「忘れて、今の、全部」




「へ?」




「いや、高校生がどうっていうより……。


つうか、そりゃ、なにも知らないわけだよな。


そっか、高校生か……」




「ご、ごめんなさい!」



深く頭を下げると、頭をくしゃりとなでられた。



「彩梅が悪いわけじゃないだろ。けど、まあ……」




言いながら、九条さんはすごく戸惑っていて。




「つうかさ、高校生で見合いなんてしちゃダメだろ? 


もし相手が彩梅に本気になって、


いますぐ結婚しようとか言われたらどうすんだよ?」




「さ、さすがに、それはないと」




すると、九条さんが深ーくため息をつく。




「お前、全然わかってないんだな」




「なにをですか?」




キョトンと首を傾げると、困ったような九条さん。




「あのさ、もう姉貴の代わりに見合いなんて行っちゃダメだぞ?」





「は、はい。あの、いつかは、



お見合いをすることになると思うんですけど……」





「本気でそんなこと考えてんの?」





呆れているような怒っているような九条さんを、


まっすぐに見つめ返す。





「私は姉のように優秀じゃないから、



家を継いだり、経営を担ったりすることはできないけど、



せめて西園寺家を守っていくために、



自分にできることをと思っています」




「それが、西園寺家が決めた相手と結婚すること?」




「はいっ」




そこまで伝えると、ぴんっと背筋を伸ばして、



九条さんに向き合った。



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