勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
玄関から庭にまわり、おそるおそる九条さんを見上げる。




「あ、あの、……九条さん」




「参ったな」




「……はい」




すっかりと暗くなった庭は霧でかすんで、夜のしめった匂いがする。




「彩梅は家のために生きていきたいって言ってたよな?」




「で、でも、これは!」




「そう、これは間違ってる。



わかっただろ、つまり、こういうことなんだよ。



彩梅の意思なんて、関係ない。



いつだって家同士の利害関係が最優先されるんだよ」




九条さんの言葉に、がっくりと肩を落とす。




さすがに、こんなに一方的に話が進むとは思っていなかった。




「けど、彩梅のお父さんが言う通り、



あのじーさんたちが決めたことを覆すのは、



そんなに簡単なことじゃない。



あのふたりを敵に回したら、ろくなことにならない」




九条さんの言葉に、



おじいちゃん達の強権的なふるまいを思い出して、



ぞっとする。





おじいちゃん達、本当になにを考えてるんだろう!





「最終的には、婚約破棄してすべて白紙にもどすから、



彩梅はなにも心配しなくて大丈夫だよ」





「……はい」





月の光を浴びた九条さんの綺麗な横顔を、じっと見つめる。




「それから、形式上つきあうことになるけど、



子ども相手に手だしたりしないから、彩梅はなにも心配しなくていい」





子ども相手……





九条さんのその一言に、ちくりと胸が痛んで視線を落とす。





すると、くしゃりと頭を撫でられた。





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