勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
坂道の続く住宅街を車で抜けると、



突然視界が開けて、小さな公園が現れた。




高台にあるその公園の脇に車を寄せて、



そとの景色を見下ろすと、



住宅街の灯りが光の粒になって遠くまで広がっている。





「うわあ、綺麗……」




「穴場だろ? 悩んだり、へこんだりすると、よくここに来るんだ」




「すごく、静かですね」




住宅街から少し離れているせいか、


公園には九条さんとふたりきり。




「コンビニでコーヒー買って、ボーっとするにはいいよ」




「九条さんの秘密の場所ですか?」




「そうだな。彩梅だけだよ、ここに連れてきたのは」




「私だけ?」




「そう、彩梅だけだよ」




嬉しい……!




空は澄んでいて、



目の前ではキラキラと夜景が光っていて、



隣には九条さんがいてくれて。




「彩梅、楽しそうだな?」




「ドライブして夜景を見るなんて、デートみたいですごく楽しいです!」




「これって、一応デートだよな?」




「デート……ですか?」




「デートだよ」




九条さんとデート……‼




気がつけば、一人分は空いていた二人の距離は縮まって、



九条さんの笑顔がすぐ隣にある。




「それじゃ、ついでにもっとデートらしいこと、しておく?」




いたずらな顔をした九条さんの指先が、私のあごを持ち上げる。




「?」




「目、つぶって、彩梅」




……え?




こ、これは、もしかすると……‼




バクバクと全身に心臓の音が響いて、



耳までかあっと熱くなる。




九条さんの顔が近づいて



覚悟を決めてキュッと目を閉じたところで、



口のなかにコロンとした感触とミントの甘味が広がった。



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