勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
九条さんをドキドキさせようと思ったのに、



まさかの返り討ちに合うなんて……!




「さて、冗談はこのくらいにして……



彩梅はこれからどんな奴と出会っていくんだろうな」




私から一歩離れた九条さんの声が、



静かな闇にしっとりと響く。




「私はこうして九条さんと一緒にいられれば、



それでいいです」




だって、そのくらいに


今こうしてふたりで過ごせるこの瞬間が嬉しくてたまらない。




「彩梅は俺しか知らないから、そう思うんだよ」




「……それじゃ、ダメですか?」




「ダメだよ。彩梅にはもっとふさわしい奴がいだろ」




さらりと答えた九条さんに、胸の奥がずきりと痛む。




「ダメなのは、私じゃなくて、九条さんですよね」




「……え?」




「大丈夫です。ちゃんと分かってます」




ちくちくと胸を刺す痛みにふたをして、笑顔をつくる。




九条さんは、家同士が決めた約束を守るために、



こうして一緒にいてくれるだけ。




大丈夫、ちゃんと分かってる。



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