歪ーいびつー(どんでん返し系 狂愛ミステリー)
6月
※※※
目の前にいる奏多くんの背中が、見る見るうちに真っ赤に染まってゆくーー
(一体……、何が……。何が……っ、起こった、の……?)
突然の出来事に処理しきれなかった私は、ただ、呆然と目の前の奏多くんを見つめた。
「……っ、いやぁぁぁああーー!!!!」
朱莉ちゃんの上げた悲鳴で、止まっていた私の思考は再びゆっくりと動き始める。
「ーーあんただけは……っ、絶対に許さない!!」
そう叫んだ優雨ちゃんが、今度は正面から奏多くんにぶつかった。
「夢には……っ! 夢には絶対に近付かせない!!」
奏多くんを睨みつけながら、ゆっくりと身体を離した優雨ちゃん。
その手にはーー
血に染まったハサミが握られている。
「ぁ……っ……あ゛っ……ぁっ」
言葉にならない声を漏らしながら、私はガタガタと身体を震えさせた。
こんな光景、決して見たいわけではない。
そう思うのにーー
私の瞳は優雨ちゃんを捉えたまま、私の意に反して逸らすことができない。
そんな中、優雨ちゃんが再び奏多くんに向かって歩みを進めた、その時ーー
私の瞳は、大きな胸に抱きしめらたことでその視界を閉ざされた。
「夢ちゃん……っ、見ないで。見ちゃダメだよ……」
優しく耳に届いたのは、そう囁く楓くんの声だった。
朱莉ちゃんや優雨ちゃんが叫んでいる声は、遠くの方でボンヤリと聞こえるのに……。やけにクリアに響く、楓くんの優しい声。
私は堪らず大声を上げて泣き叫ぶと、床に向かって崩れ落ちた。それを追うようにして、しっかりと私を抱きとめてくれた楓くん。
私は震える指先で楓くんの背中にしがみつくと、まるで目の前の光景や音を遮断するかのようにーー
ただ、大声を上げて泣き続けた。
ーーーーーー
ーーーー
「ーー夢」
あれから数分が経過したのか……あるいは、数秒しか経っていないのかーー
突然呼び掛けられたその声に、私は楓くんの肩口から顔を覗かすと、声のした方へと視線を向けてみた。
すると、優雨ちゃんがニッコリと微笑んで私を見ている。
「……ごめんね、夢。私……っ、夢から大切な人を、奪ってしまった……。っ本当に……、ごめんなさい。……今まで一緒にいてくれて、ありがとう……っ」
涙を流しながらも、最後に優しく微笑むとゆっくりと教室を出て行った優雨ちゃん。
「ーー朱莉ちゃん!」
楓くんが声を上げると、呆然と立ち尽くしていた朱莉ちゃんは、ゆっくりとこちらを振り返った。
その身体は今にも崩れ落ちてしまいそうな程に、ガクガクと震えている。
「……っ奏多が……っ。……奏多がぁぁ!!!」
私達を視界に捉えると、堰を切ったように泣き出した朱莉ちゃん。
「……うん、わかってる。俺は、救急車を呼ぶから……。朱莉ちゃんは、夢ちゃん連れて優雨ちゃんを探してきて」
「えっ……。なっ……何……、で……?」
「2人に、この現場を見せたくないから。それに……優雨ちゃん探さないと、危ないよ。……きっと、死ぬ気だと思う」
「えっ? ……っ」
「そんなの嫌でしょ? ……だから、探してきて」
2人のやり取りをボンヤリと聞いていた私は、まだ震えて力の入らない身体を楓くんに支えてもらうと、抱き抱えられるようにして立ち上がった。
「……夢ちゃん、しっかりして。優雨ちゃんを救えるのは、夢ちゃんだけだよ」
視点の定まっていなかった私は、その言葉でゆっくりと楓くんに向けて視線を合わせた。
私の目の前で、悲しそうに微笑む楓くん。
その姿を見て、流れ続ける涙を拭いながらも小さく頷く。
朱莉ちゃんとしっかりと手を繋ぐと、お互いに力の入らない身体を支え合いながら、頑張って廊下へと歩みを進める。
(優雨ちゃんを、探さないと……っ)
その思いだけを胸に、震える身体を懸命に動かして教室を後にしたのだったーー
ーーーーーー
ーーーー
早く優雨ちゃんを見つけなければ危険だからと、手分けして校内を探す事にした私達。
優雨ちゃんは無事だろうかーー?
奏多くんは助かるのだろうかーー?
色々な事がありすぎて、考えることがいっぱいで……今にも、頭がおかしくなりそうだ。
それでもーー
今は2人の安否しか考えられない。
(……それだけでいい……っ、それだけでいいんだよ……っ)
そう自分に言い聞かせると、震える足を懸命に動かす。
(……あっ。ーー携帯!)
ふと、思い立った私はその場で足を止めた。
ポケットに入っている携帯を取り出し、優雨ちゃんに電話を掛けてみる。
(お願い……っ! お願い、優雨ちゃん出て……っ!)
祈る気持ちでギュッと目を瞑った、その時ーー
プッと短い音を鳴らして、途切れた呼び出し音。
「ーーっ優雨ちゃん! ……優雨ちゃん! 良かった……っ! 今どこ!? ……どこにいるのっ!?」
繋がった携帯に向かって、勢いよく声を上げる。
『………っ夢。ごめんね……っ。……本当に……っ、ごめっ……、んね……っ』
「うん……っ。わかったよ……っ、わかったから……っ。……今、どこにいるの? 優雨ちゃんっ」
私の質問には答えようとはせずに、ただ、泣きながら謝り続ける優雨ちゃん。
ーーー!
と、その時ーー
携帯の奥で、微かに鈴の音が聞こえたような気がした。
『今まで……っ、ありがとう。……ばいばい……っ、夢ーー』
「優雨ちゃんっ!! ……っ優雨ちゃん!! ……やだぁぁぁーー!!! ……っ優雨ちゃんっ!!! ……っ ……ゔっ」
途切れてしまった携帯に向かって泣き叫ぶと、私は屋上へと続く階段へと急いだ。
体力のない私は、息が切れそうになりながらも懸命に階段を駆け上がる。
ーーーバンッ!
屋上の扉を勢いよく開くと、目の前に見える優雨ちゃんに向かって大きな声で叫んだ。
「優雨ちゃんやめてぇぇぇええーー!!!!」
私の声に気付いた優雨ちゃんは、ゆっくりとした動きで後ろを振り返った。
屋上はフェンスで二重に囲まれ、その更に外側には腰丈程の柵がある。
優雨ちゃんはーー
その柵の外側に立っていた。
痛みのない綺麗なセミロングは、風に靡いてユラユラと揺れ。優雨ちゃんの流す涙は、太陽に照らされてキラキラと綺麗に輝いている。
私を捉えた優雨ちゃんの瞳は、とても優しく穏やかな色をしていてーー
それは、思わず見惚れてしまう程に綺麗だった。
「ーー愛してる」
優雨ちゃんはそう笑顔で告げると、掴んでいた柵を離し両手を広げた。
ゆらりと揺れる身体。
雲ひとつない綺麗な青空が広がり、まわりの音さえ何も聞こえない。
それはやけにスローモーションで。
ふわりと後ろへ傾いてゆく身体。
ゆっくりーーゆっくりと。
まるで、この綺麗な空へ飛んでゆくかのようにーー
どうして私達は、
こうなってしまったのだろうーー
いつからーー
いつからこうなってしまったのだろう。
あの頃に戻りたいーーあの頃に。
「ーーい゛やあぁぁぁぁぁぁー!!!!」
空気を裂くような絶叫に、遮断されていた音が一気に蘇る。
「いやぁぁー!! ……いやぁぁぁぁー!!! ぅっ……ぐッ……なんでっ……。なんっ……でぇ……。なんでぇ……っ……」
力を無くした足は、立っている事ができずにその場に崩れ落ちた。
少し熱を持ったアスファルトに掌をつくと、その手をキュッと握りしめる。
握りしめた掌のすぐ横のアスファルトには点々と模様ができ、それは徐々に大きなシミとなっていった。
「どうしてっ……ぅっ。……ぅぅっ……どうしてぇぇぇーー!!!!!!」
悲痛な叫び声は虚しく響き渡り、行き場を無くした声はただ空へと消えていった。
なんで? どうして?
何度叫んだところで、その答えは返ってくるわけもなくーー
ただ、遠くで微かな鈴の音が聞こえるだけだった。
ーーーー
ーーーーーー
目の前にいる奏多くんの背中が、見る見るうちに真っ赤に染まってゆくーー
(一体……、何が……。何が……っ、起こった、の……?)
突然の出来事に処理しきれなかった私は、ただ、呆然と目の前の奏多くんを見つめた。
「……っ、いやぁぁぁああーー!!!!」
朱莉ちゃんの上げた悲鳴で、止まっていた私の思考は再びゆっくりと動き始める。
「ーーあんただけは……っ、絶対に許さない!!」
そう叫んだ優雨ちゃんが、今度は正面から奏多くんにぶつかった。
「夢には……っ! 夢には絶対に近付かせない!!」
奏多くんを睨みつけながら、ゆっくりと身体を離した優雨ちゃん。
その手にはーー
血に染まったハサミが握られている。
「ぁ……っ……あ゛っ……ぁっ」
言葉にならない声を漏らしながら、私はガタガタと身体を震えさせた。
こんな光景、決して見たいわけではない。
そう思うのにーー
私の瞳は優雨ちゃんを捉えたまま、私の意に反して逸らすことができない。
そんな中、優雨ちゃんが再び奏多くんに向かって歩みを進めた、その時ーー
私の瞳は、大きな胸に抱きしめらたことでその視界を閉ざされた。
「夢ちゃん……っ、見ないで。見ちゃダメだよ……」
優しく耳に届いたのは、そう囁く楓くんの声だった。
朱莉ちゃんや優雨ちゃんが叫んでいる声は、遠くの方でボンヤリと聞こえるのに……。やけにクリアに響く、楓くんの優しい声。
私は堪らず大声を上げて泣き叫ぶと、床に向かって崩れ落ちた。それを追うようにして、しっかりと私を抱きとめてくれた楓くん。
私は震える指先で楓くんの背中にしがみつくと、まるで目の前の光景や音を遮断するかのようにーー
ただ、大声を上げて泣き続けた。
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「ーー夢」
あれから数分が経過したのか……あるいは、数秒しか経っていないのかーー
突然呼び掛けられたその声に、私は楓くんの肩口から顔を覗かすと、声のした方へと視線を向けてみた。
すると、優雨ちゃんがニッコリと微笑んで私を見ている。
「……ごめんね、夢。私……っ、夢から大切な人を、奪ってしまった……。っ本当に……、ごめんなさい。……今まで一緒にいてくれて、ありがとう……っ」
涙を流しながらも、最後に優しく微笑むとゆっくりと教室を出て行った優雨ちゃん。
「ーー朱莉ちゃん!」
楓くんが声を上げると、呆然と立ち尽くしていた朱莉ちゃんは、ゆっくりとこちらを振り返った。
その身体は今にも崩れ落ちてしまいそうな程に、ガクガクと震えている。
「……っ奏多が……っ。……奏多がぁぁ!!!」
私達を視界に捉えると、堰を切ったように泣き出した朱莉ちゃん。
「……うん、わかってる。俺は、救急車を呼ぶから……。朱莉ちゃんは、夢ちゃん連れて優雨ちゃんを探してきて」
「えっ……。なっ……何……、で……?」
「2人に、この現場を見せたくないから。それに……優雨ちゃん探さないと、危ないよ。……きっと、死ぬ気だと思う」
「えっ? ……っ」
「そんなの嫌でしょ? ……だから、探してきて」
2人のやり取りをボンヤリと聞いていた私は、まだ震えて力の入らない身体を楓くんに支えてもらうと、抱き抱えられるようにして立ち上がった。
「……夢ちゃん、しっかりして。優雨ちゃんを救えるのは、夢ちゃんだけだよ」
視点の定まっていなかった私は、その言葉でゆっくりと楓くんに向けて視線を合わせた。
私の目の前で、悲しそうに微笑む楓くん。
その姿を見て、流れ続ける涙を拭いながらも小さく頷く。
朱莉ちゃんとしっかりと手を繋ぐと、お互いに力の入らない身体を支え合いながら、頑張って廊下へと歩みを進める。
(優雨ちゃんを、探さないと……っ)
その思いだけを胸に、震える身体を懸命に動かして教室を後にしたのだったーー
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早く優雨ちゃんを見つけなければ危険だからと、手分けして校内を探す事にした私達。
優雨ちゃんは無事だろうかーー?
奏多くんは助かるのだろうかーー?
色々な事がありすぎて、考えることがいっぱいで……今にも、頭がおかしくなりそうだ。
それでもーー
今は2人の安否しか考えられない。
(……それだけでいい……っ、それだけでいいんだよ……っ)
そう自分に言い聞かせると、震える足を懸命に動かす。
(……あっ。ーー携帯!)
ふと、思い立った私はその場で足を止めた。
ポケットに入っている携帯を取り出し、優雨ちゃんに電話を掛けてみる。
(お願い……っ! お願い、優雨ちゃん出て……っ!)
祈る気持ちでギュッと目を瞑った、その時ーー
プッと短い音を鳴らして、途切れた呼び出し音。
「ーーっ優雨ちゃん! ……優雨ちゃん! 良かった……っ! 今どこ!? ……どこにいるのっ!?」
繋がった携帯に向かって、勢いよく声を上げる。
『………っ夢。ごめんね……っ。……本当に……っ、ごめっ……、んね……っ』
「うん……っ。わかったよ……っ、わかったから……っ。……今、どこにいるの? 優雨ちゃんっ」
私の質問には答えようとはせずに、ただ、泣きながら謝り続ける優雨ちゃん。
ーーー!
と、その時ーー
携帯の奥で、微かに鈴の音が聞こえたような気がした。
『今まで……っ、ありがとう。……ばいばい……っ、夢ーー』
「優雨ちゃんっ!! ……っ優雨ちゃん!! ……やだぁぁぁーー!!! ……っ優雨ちゃんっ!!! ……っ ……ゔっ」
途切れてしまった携帯に向かって泣き叫ぶと、私は屋上へと続く階段へと急いだ。
体力のない私は、息が切れそうになりながらも懸命に階段を駆け上がる。
ーーーバンッ!
屋上の扉を勢いよく開くと、目の前に見える優雨ちゃんに向かって大きな声で叫んだ。
「優雨ちゃんやめてぇぇぇええーー!!!!」
私の声に気付いた優雨ちゃんは、ゆっくりとした動きで後ろを振り返った。
屋上はフェンスで二重に囲まれ、その更に外側には腰丈程の柵がある。
優雨ちゃんはーー
その柵の外側に立っていた。
痛みのない綺麗なセミロングは、風に靡いてユラユラと揺れ。優雨ちゃんの流す涙は、太陽に照らされてキラキラと綺麗に輝いている。
私を捉えた優雨ちゃんの瞳は、とても優しく穏やかな色をしていてーー
それは、思わず見惚れてしまう程に綺麗だった。
「ーー愛してる」
優雨ちゃんはそう笑顔で告げると、掴んでいた柵を離し両手を広げた。
ゆらりと揺れる身体。
雲ひとつない綺麗な青空が広がり、まわりの音さえ何も聞こえない。
それはやけにスローモーションで。
ふわりと後ろへ傾いてゆく身体。
ゆっくりーーゆっくりと。
まるで、この綺麗な空へ飛んでゆくかのようにーー
どうして私達は、
こうなってしまったのだろうーー
いつからーー
いつからこうなってしまったのだろう。
あの頃に戻りたいーーあの頃に。
「ーーい゛やあぁぁぁぁぁぁー!!!!」
空気を裂くような絶叫に、遮断されていた音が一気に蘇る。
「いやぁぁー!! ……いやぁぁぁぁー!!! ぅっ……ぐッ……なんでっ……。なんっ……でぇ……。なんでぇ……っ……」
力を無くした足は、立っている事ができずにその場に崩れ落ちた。
少し熱を持ったアスファルトに掌をつくと、その手をキュッと握りしめる。
握りしめた掌のすぐ横のアスファルトには点々と模様ができ、それは徐々に大きなシミとなっていった。
「どうしてっ……ぅっ。……ぅぅっ……どうしてぇぇぇーー!!!!!!」
悲痛な叫び声は虚しく響き渡り、行き場を無くした声はただ空へと消えていった。
なんで? どうして?
何度叫んだところで、その答えは返ってくるわけもなくーー
ただ、遠くで微かな鈴の音が聞こえるだけだった。
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