歪ーいびつー(どんでん返し系 狂愛ミステリー)
※※※
「ーー夢、それどうしたの? 可愛いね」
キャンプファイヤーが始まるまでの間、テントの中で暫し寛いでいると、私の掌を指差して口を開いた優雨ちゃん。
「先生にね……、穴を開けてもらって作ったの」
「さっきの川で拾ったんだ? 綺麗だね」
「うん。……涼くんがくれたの。だから、お揃いにしたいなって思って……」
自分で言っていて恥ずかしくなってきた私は、真っ赤になっているであろう顔を俯かせると、今しがた作ったばかりの貝殻のブレスレットを見つめた。
先程涼くんから貰ったのは、色や形のよく似た2枚の貝殻だった。
丁度2枚あるんだし、お揃いにしたいなって。そう思った私は、貝殻に穴を開けてもらうと紐を通してブレスレットにしてみた。
ただ紐を通しただけのそのブレスレットは、お世辞にもお洒落な物だとは言えないだろう。
ただーー私は、涼くんとお揃いで貝殻を持っていたかったのだ。
「きっと、喜んでくれるよ」
顔をそっと上げてみると、優しく微笑んでいる優雨ちゃんがいる。
「……うん」
その言葉がなんだかとても嬉しくて、笑顔で頷くと貝殻を持った両手を胸の前でキュッと握りしめる。
「ーーキャンプファイヤー、始めるってよー! 行こっ?」
テント入り口を勢いよく捲り上げた朱莉ちゃんは、中にいる私達に向かって元気よく声を上げた。
「……うんっ」
そう笑顔で返事を返すと、ブレスレットをポケットにしまって会場へと向かう。
途中で遭遇した涼くん達と共に会場まで着くと、点火式の準備があるからと、そのまま先生達の元へと姿を消した涼くん。
残された私達は、クラスに割り当てれた場所まで移動すると、組み木の周りを囲っている席へと腰を下ろした。
暫しの間その場で談笑を楽しんでいると、それから程なくして点火式は開始された。
白い布を被った先生と、数名の生徒達。
その中には勿論涼くんもいて、先生達と演技をしながら薪へと点火してゆく。
「涼くんがいるよっ!」
「キャー! 涼くん、カッコイイ!」
そんな声が聞こえてくる中ーー
(うん……。本当に、カッコイイなぁ……)
なんて思いながら、ポーッと目の前の光景を眺める。
「ーー夢ちゃん、夢ちゃん」
「……っえ!? ……な、何?」
驚きに少しだけ声を上擦らせると、そんな私を見た楓くんはクスクスと声を漏らした。
「……驚かせてごめんね。実は、家から花火持ってきたんだけどさ。キャンプファイヤーが終わったら、皆んなでやろうよ」
そう言って、小首を傾げて可愛らしく微笑む楓くん。
「……うんっ! 花火、楽しみだねっ!」
「夢ちゃん。シーッだよ? 先生に見つからないようにしなきゃね」
「あっ……! う、うん……」
人差し指を立てる仕草をする楓くんを見て、慌てて声を潜める。
(先生に見つかったら、凄く怒られるんだろうな……)
そんな事を考えながらも、この後の花火が楽しみで仕方がなかった私は、こっそりと小さく笑みを漏らしたのだった。
ーーーーーーーー
ーーーーーー
その後、滞りなく進んだキャンプファイヤーは、そろそろ終わりへと近づいていた。
「ーーあ、あのね……。これ……」
やっと涼くんと2人きりになれた私は、ポケットに入っていたブレスレットを取り出すと、涼くんの目の前でそっと掌を広げた。
「……これ、夢が作ったの?」
「うん……。先生にね、穴を開けて貰って紐を通しただけなんだけど……」
「そっか。……夢とお揃いなんだね」
既にブレスレットの付けられている私の手首に気付いた涼くんは、ブレスレットを取り上げると自分の手首へと付けた。
「ありがとう。大切にするよ」
ニカッと笑った涼くんが、ブレスレットの付いた手で私の頭を優しく撫でたーーその時。
丁度キャンプファイヤーが終了したのか、ゴミの片付けやテントに帰って行く生徒達やらで、一気に周りが騒がしくなってくる。
突然ギャラリーが多くなった事で、何だか気恥ずかしくなった私は少しだけ顔を俯かせた。
すると、目の前の涼くんがおもむろに口を開いた。
「……夢。俺、ちょっと用があるから。また後で、花火の時に会おう」
「うん……。わかった」
俯いていた顔を上げて返事をすると、笑顔を残して立ち去って行った涼くん。
その背中に向かって小さく手を振ると、徐々に小さくなってゆく後ろ姿を黙って見送る。
その後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認すると、トクトクと高鳴る胸元を抑えて小さく息を吐いた。
(……ちゃんと渡せて良かった)
ホッとしたのと同時に嬉しさから小さな笑みを溢すと、私は優雨ちゃん達を探す為にその場を後にしたーー
けれど、いくら探してみても優雨ちゃんどころか誰一人として見つける事ができない。
(もう、テントに帰ったのかな……?)
そう思ってテントへ戻ってみるも、そこにもやはり、優雨ちゃんと朱莉ちゃんの姿はなかった。
(……あれ? やっぱり、まだ会場にいたのかな……)
そうは思っても、入れ違いになるのが嫌だった私はそのままテントで待つ事にしてみた。
すると、程なくして優雨ちゃんが1人、テントへと戻ってきた。
「ーーあれ? 夢、1人?」
「うん……。寂しかったよぉ。優雨ちゃん、どこに行ってたの?」
「……ごめんね。トイレに行ってたの」
私の目の前で屈んでみせた優雨ちゃんは、申し訳なさそうな顔で小首を傾げると、「夢。本当に、ごめんね……」と言って私の頭を優しく撫でた。
朱莉ちゃんも何処にいるのか分からないと報告していると、突然捲られた入り口から軽快な声が響いた。
「夢ちゃ〜ん。いるー?」
そう言いながら現れた楓くんは、私達を視界に捉えるとニコリと微笑んだ。
「あっ、いたいたっ。俺は花火取ってくるから、先に屋外キッチンに行っててね? バレないように、気を付けてね」
それだけ告げると、笑顔を残してすぐに姿を消した楓くん。
もしかしたら、朱莉ちゃんは先に屋外キッチンへ行ったのかもしれないと優雨ちゃんに言われたのもあり、私達は楓くんに言われた通りに屋外キッチンへと向かってみた。
けれど、屋外キッチンには奏多くんだけしか居らず、朱莉ちゃんの姿は見当たらない。
どこへ行ってしまったのかと心配していると、暫くして楓くんと共に姿を現した朱莉ちゃん。無事に再会できたことに、安堵の息を漏らす。
だけどーー
いくら待ってみても、涼くんだけは一向に姿を現さなかった。
「きっと、花火をしている内に来るよ」
そう言った奏多くんの言葉で、私達は花火をしながら待つ事にしたのだけれど……。
結局、最後まで涼くんが姿を見せる事はなかったーー。
その後、点呼があるので仕方なくテントに帰ってきた私は、『きっと、疲れてテントで寝てるのかもね』と言っていた楓くんの言葉を思い出していた。
点呼も無事に終わり、皆んなが寝る準備を始める中、一足先に支度の終わった私はテントの小窓から外の様子を覗いてみた。
そこには、もう寝ているのか所々に明りの消えているテントが見える。
涼くんの事が気になっていた私は、そのまま涼くん達のテントへと視線を移してみた。すると、そこにはまだ明りが灯っている。
(涼くん、どうして来なかったのかなぁ……)
そう思いながら見つめていると、背後から優しく肩を叩かれた。
「……夢。もう寝ないと、明日起きれなくなるよ?」
「うん……」
優雨ちゃんに優しくそう諭され、覗いていた小窓を閉じると促されるままに寝袋へと入る。
瞼を閉じて寝る準備をするも、いつまで経っても少し騒がしい外に胸が騒つき始める。
私は妙な不安感を抱えながらも、明日になったらまた涼くんに会える。そう思いながら、徐々に意識を手放していったのだったーー
ーーーーーーーー
ーーーーーー
その翌日、私が再び涼くんと顔を合わせる事はなかった。
昨夜から行方のわからなくなっていた涼くんは、先生達が夜通し必死に捜索したにも関わらずに、見つける事ができずーー
翌日になっても、戻ってくる事はなかった。
「ーー夢、それどうしたの? 可愛いね」
キャンプファイヤーが始まるまでの間、テントの中で暫し寛いでいると、私の掌を指差して口を開いた優雨ちゃん。
「先生にね……、穴を開けてもらって作ったの」
「さっきの川で拾ったんだ? 綺麗だね」
「うん。……涼くんがくれたの。だから、お揃いにしたいなって思って……」
自分で言っていて恥ずかしくなってきた私は、真っ赤になっているであろう顔を俯かせると、今しがた作ったばかりの貝殻のブレスレットを見つめた。
先程涼くんから貰ったのは、色や形のよく似た2枚の貝殻だった。
丁度2枚あるんだし、お揃いにしたいなって。そう思った私は、貝殻に穴を開けてもらうと紐を通してブレスレットにしてみた。
ただ紐を通しただけのそのブレスレットは、お世辞にもお洒落な物だとは言えないだろう。
ただーー私は、涼くんとお揃いで貝殻を持っていたかったのだ。
「きっと、喜んでくれるよ」
顔をそっと上げてみると、優しく微笑んでいる優雨ちゃんがいる。
「……うん」
その言葉がなんだかとても嬉しくて、笑顔で頷くと貝殻を持った両手を胸の前でキュッと握りしめる。
「ーーキャンプファイヤー、始めるってよー! 行こっ?」
テント入り口を勢いよく捲り上げた朱莉ちゃんは、中にいる私達に向かって元気よく声を上げた。
「……うんっ」
そう笑顔で返事を返すと、ブレスレットをポケットにしまって会場へと向かう。
途中で遭遇した涼くん達と共に会場まで着くと、点火式の準備があるからと、そのまま先生達の元へと姿を消した涼くん。
残された私達は、クラスに割り当てれた場所まで移動すると、組み木の周りを囲っている席へと腰を下ろした。
暫しの間その場で談笑を楽しんでいると、それから程なくして点火式は開始された。
白い布を被った先生と、数名の生徒達。
その中には勿論涼くんもいて、先生達と演技をしながら薪へと点火してゆく。
「涼くんがいるよっ!」
「キャー! 涼くん、カッコイイ!」
そんな声が聞こえてくる中ーー
(うん……。本当に、カッコイイなぁ……)
なんて思いながら、ポーッと目の前の光景を眺める。
「ーー夢ちゃん、夢ちゃん」
「……っえ!? ……な、何?」
驚きに少しだけ声を上擦らせると、そんな私を見た楓くんはクスクスと声を漏らした。
「……驚かせてごめんね。実は、家から花火持ってきたんだけどさ。キャンプファイヤーが終わったら、皆んなでやろうよ」
そう言って、小首を傾げて可愛らしく微笑む楓くん。
「……うんっ! 花火、楽しみだねっ!」
「夢ちゃん。シーッだよ? 先生に見つからないようにしなきゃね」
「あっ……! う、うん……」
人差し指を立てる仕草をする楓くんを見て、慌てて声を潜める。
(先生に見つかったら、凄く怒られるんだろうな……)
そんな事を考えながらも、この後の花火が楽しみで仕方がなかった私は、こっそりと小さく笑みを漏らしたのだった。
ーーーーーーーー
ーーーーーー
その後、滞りなく進んだキャンプファイヤーは、そろそろ終わりへと近づいていた。
「ーーあ、あのね……。これ……」
やっと涼くんと2人きりになれた私は、ポケットに入っていたブレスレットを取り出すと、涼くんの目の前でそっと掌を広げた。
「……これ、夢が作ったの?」
「うん……。先生にね、穴を開けて貰って紐を通しただけなんだけど……」
「そっか。……夢とお揃いなんだね」
既にブレスレットの付けられている私の手首に気付いた涼くんは、ブレスレットを取り上げると自分の手首へと付けた。
「ありがとう。大切にするよ」
ニカッと笑った涼くんが、ブレスレットの付いた手で私の頭を優しく撫でたーーその時。
丁度キャンプファイヤーが終了したのか、ゴミの片付けやテントに帰って行く生徒達やらで、一気に周りが騒がしくなってくる。
突然ギャラリーが多くなった事で、何だか気恥ずかしくなった私は少しだけ顔を俯かせた。
すると、目の前の涼くんがおもむろに口を開いた。
「……夢。俺、ちょっと用があるから。また後で、花火の時に会おう」
「うん……。わかった」
俯いていた顔を上げて返事をすると、笑顔を残して立ち去って行った涼くん。
その背中に向かって小さく手を振ると、徐々に小さくなってゆく後ろ姿を黙って見送る。
その後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認すると、トクトクと高鳴る胸元を抑えて小さく息を吐いた。
(……ちゃんと渡せて良かった)
ホッとしたのと同時に嬉しさから小さな笑みを溢すと、私は優雨ちゃん達を探す為にその場を後にしたーー
けれど、いくら探してみても優雨ちゃんどころか誰一人として見つける事ができない。
(もう、テントに帰ったのかな……?)
そう思ってテントへ戻ってみるも、そこにもやはり、優雨ちゃんと朱莉ちゃんの姿はなかった。
(……あれ? やっぱり、まだ会場にいたのかな……)
そうは思っても、入れ違いになるのが嫌だった私はそのままテントで待つ事にしてみた。
すると、程なくして優雨ちゃんが1人、テントへと戻ってきた。
「ーーあれ? 夢、1人?」
「うん……。寂しかったよぉ。優雨ちゃん、どこに行ってたの?」
「……ごめんね。トイレに行ってたの」
私の目の前で屈んでみせた優雨ちゃんは、申し訳なさそうな顔で小首を傾げると、「夢。本当に、ごめんね……」と言って私の頭を優しく撫でた。
朱莉ちゃんも何処にいるのか分からないと報告していると、突然捲られた入り口から軽快な声が響いた。
「夢ちゃ〜ん。いるー?」
そう言いながら現れた楓くんは、私達を視界に捉えるとニコリと微笑んだ。
「あっ、いたいたっ。俺は花火取ってくるから、先に屋外キッチンに行っててね? バレないように、気を付けてね」
それだけ告げると、笑顔を残してすぐに姿を消した楓くん。
もしかしたら、朱莉ちゃんは先に屋外キッチンへ行ったのかもしれないと優雨ちゃんに言われたのもあり、私達は楓くんに言われた通りに屋外キッチンへと向かってみた。
けれど、屋外キッチンには奏多くんだけしか居らず、朱莉ちゃんの姿は見当たらない。
どこへ行ってしまったのかと心配していると、暫くして楓くんと共に姿を現した朱莉ちゃん。無事に再会できたことに、安堵の息を漏らす。
だけどーー
いくら待ってみても、涼くんだけは一向に姿を現さなかった。
「きっと、花火をしている内に来るよ」
そう言った奏多くんの言葉で、私達は花火をしながら待つ事にしたのだけれど……。
結局、最後まで涼くんが姿を見せる事はなかったーー。
その後、点呼があるので仕方なくテントに帰ってきた私は、『きっと、疲れてテントで寝てるのかもね』と言っていた楓くんの言葉を思い出していた。
点呼も無事に終わり、皆んなが寝る準備を始める中、一足先に支度の終わった私はテントの小窓から外の様子を覗いてみた。
そこには、もう寝ているのか所々に明りの消えているテントが見える。
涼くんの事が気になっていた私は、そのまま涼くん達のテントへと視線を移してみた。すると、そこにはまだ明りが灯っている。
(涼くん、どうして来なかったのかなぁ……)
そう思いながら見つめていると、背後から優しく肩を叩かれた。
「……夢。もう寝ないと、明日起きれなくなるよ?」
「うん……」
優雨ちゃんに優しくそう諭され、覗いていた小窓を閉じると促されるままに寝袋へと入る。
瞼を閉じて寝る準備をするも、いつまで経っても少し騒がしい外に胸が騒つき始める。
私は妙な不安感を抱えながらも、明日になったらまた涼くんに会える。そう思いながら、徐々に意識を手放していったのだったーー
ーーーーーーーー
ーーーーーー
その翌日、私が再び涼くんと顔を合わせる事はなかった。
昨夜から行方のわからなくなっていた涼くんは、先生達が夜通し必死に捜索したにも関わらずに、見つける事ができずーー
翌日になっても、戻ってくる事はなかった。