時には風になって、花になって。
───…似てきた、な。
あいつに、また似てきた。
「サヤ、…お前の母親の名は…“ウタ”か」
スッと瞳が見開かれた。
どうして知っているの?と、思っているのだろう。
やはりそうだったか。
だがおかしい。
ウタは、あいつと私が逢ったのは今から幾百年も前だ。
そしてあの女は人間だ。
だからこそ娘のお前が今の世に生きていることが不思議でならない。
(おっかあと知り合いなの…?)
知るときが来たのかもしれない。
知らなければならぬときが。
何故あの日、お前は私の元へ来なかったのか。
何故この娘が狼へと変貌したのか。
「サヤ、…お前は己を知りたいか」
人間であろうと狼であろうと、私がお前を大切に思う気持ちは今後も変わらない。
どんな真実が待ち受けているのかは私ですら想像を遥かに越えるものなのかもしれない。
それでも、ウタの子であるお前なら真実から逃げることはないだろう。
(知りたい、サヤ、…知りたい!)
ピーーーッと、力強く空へ響いた。
「───わかった。…羅生門の元へ向かう」
ウタは、あの女は。
この紅覇が初めて愛した女なのだから。