時には風になって、花になって。
幾百の記憶
『旨いなぁ、人間の肉ってのは』
『あの悲鳴、あの顔、それを喰ってると思うと堪らねぇ』
まるで性(さが)の失った獣だと思った。
それは強ち間違いではないのだろう。
人間から見れば妖怪というのは、己のような鬼というのはそんなものなのかもしれない。
『お前、まだ鬼と人は分かり合えるとか馬鹿げたこと言ってんのかァ紅覇』
『…貴様らは間違っている。人だって生きてるだろう』
『くっだらねぇなァ。こんな息子が生まれて羅生門様が気の毒で仕方ねェ』
それは紅覇がこの世の妖─あやかし─として生を受けて、まだ百年余りという月日のことだった。
『あははっ、それであんた落ち込んでんだ?』
人の姿に化けるようになって月日はそこまで経っていない。
だからこそ20歳前後の見た目よりは幼く見える顔立ちをした青年の隣に、1人の女は腰を下ろして笑った。
『…落ち込んでなどいない』
『全くもう、素直じゃないんだから』
この娘は幾つか。
人間をあまり知らない紅覇でも同い年程、いや少し上か、などと微量な違いを区別できるくらいにはなっていた。