時には風になって、花になって。
『でもさぁ紅覇。あんたの思想は正しいって判明してるの、分からない?』
『…どこがだ。一族の者は皆、人間を殺しては喰っている』
むぎゅっと、女は紅覇の両頬を掌で挟んで無理矢理に向かせた。
『美男が台無し~』なんて言っては無邪気に笑う女───ウタ。
『…私は人間よ?それであんたは鬼。分かり合えてるじゃない』
その屈託の無い顔が好きだった。
人間という生き物は面白い。
コロコロと表情は変わり、そして己に持ち合わせていない優しさを秘めている。
『私達が証明出来てる』
『───…』
いつ出会ったか、そんなものをわざわざ数えていないが為に気付けばそれは当たり前になっていて。
こうして人と妖怪の目の無い場所で顔を合わせては他愛もない会話を交える日々。
『あ、紅覇。目つむって』
『何故だ』
『いいからつむってってば!髪に葉っぱがついてるの!』
言われた通り、スッと目を閉じる。
覇道に生きる鬼が他者に対して目を閉じることなど絶対にしてはならない。
それでも青年が迷いなく閉じたのは、この女はそういう相手ではないと理解しているからだろう。