時には風になって、花になって。




『よしっ、取れたっ!』


『…もう良いか』


『…んー…まだもうちょっと』



ふわっと髪に触れられたかと思えば、今度は柔らかい感触が頬に触れた。


───ちゅっ。


そんな音が静かな場所に響く。



『…なんの真似だ』



ゆっくり瞳を開けば、ウタの顔が目の前。

微かに頬を赤くさせて照れたようにはにかんでいる。


…何故、そんなにも哀しい顔をしているんだ。

紅覇にはその表情が泣いてるように見えた。



『これはね、人間が大切な人へ送る行動なの。額とか、頬とか、髪とか……場所によって意味がちゃんとあるのよ?』


『…頬の意味は、なんだ』


『頬は確か…親愛とか…?』



どこか違和感があった。

親愛───…

鬼である己には全くもって分からぬ感情の名だが。



『それでね、ここは…愛情』



トントンと、細い指が紅覇の唇をつつく。



『唇と唇は愛し合う男女がするものなの』



ウタは微笑んだ。



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