時には風になって、花になって。




きゃっきゃっとはしゃぐ声が聞こえてくるようだった。

物理的には聞こえないものの、それでも目の前の小娘は降りかかる水を浴びて楽しそうに笑っている。



「なにが楽しい」



よく分からん奴だ。
お前は今、鬼を前にしているというのに。

身ぐるみも剥がされ、下手したらそのまま丸飲みされてもおかしくない。


それなのにこの娘は私には最初から怯えていなかった。



「おい、何をしている」



無事に水は浴び終わったはいいものの。

その娘はちょろちょろと動いては走り回っている。


幾度か声をかけても何かに夢中だ。

このまま置いて去ってしまおうか。


すると、ちょこんとしゃがんでいた少女は何かを集めては再び駆け寄ってきた。



(あげる!)



両手に抱える程の花。

それを紅覇の耳へ当てては嬉しそうに微笑んでいる。


こんなもの、すぐに枯れてしまうというのに。

鬼である己にはこんな綺麗なものは似合わない。



「…お前の方が似合う」



花を潰さぬように、目の前の花よりも脆い存在へそっと当てた。



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