時には風になって、花になって。
「羅生門…貴様…ッ!!」
こんな紅覇を見るのは初めてだった。
いつもその本当の姿は滅多に見せないというのに。
どんなに強力な妖怪を相手にするとしても、その姿だけは隠していた。
それはきっと、サヤがあの日を思い出させない為にだ。
片腕を噛み千切ってしまったことに罪悪感を感じさせない為。
「お前があの女を愛している等とくだらんことをほざくからだ、紅覇」
そんな言葉を聞いた瞬間、紅覇は羅生門へと飛びかかった。
片眼を失っている男は間一髪で避ける。
愛している…?
誰が、誰を……?
話に追い付けない自分がいる。
「聞いたことがある。狼一族の姫は、大層変わった女子(おなご)だったと」
羅生門の蹴りが紅覇を突き飛ばす。
壁にめり込み、パラパラと瓦礫が地面に落ちる。
「紅覇…っ!」
そんなサヤの声は聞こえていないのか。
返事もなければサヤを見ようともしない。
それはサヤが狼だから…?
違う、彼は私など見ていないからだ。