時には風になって、花になって。
「その女は妖怪に生まれながらにして人間になりたがったという」
「黙れ…ッ!!」
紅覇、あなたは誰を見ているの…?
「その女子の名は───ウタ。
紅覇よ、貴様が恋い焦がれた人間の娘は人間に憧れた憐れな狼だったのだ」
そして男は私へと視線を移す。
ふっと笑い、次に懐から何かを取り出した。
それは青く光る炎。
昔、紅覇に抱えられた1人の少女が両手に包み込んだものとよく似ていた。
「これはある男の魂だ」
どうしてかはわからない。
わからないけれど、その炎の塊を見ていたサヤの頬には無数の涙が伝っていた。
やっと会えたと思った。
「おっとう……」
この魂は、この炎の正体は。
「そうだ、これは我が殺した貴様の父親の命そのものだ」
男はポツリポツリと話し出す。
かつて一国を滅ぼす程の力を持つ妖怪の一族に、とても変わった娘がいた話を。
そしてその娘がある1人の青年に恋をした話を。
そして、彼女が愛した男の名が“紅覇”だということを───。