時には風になって、花になって。
「そしてウタは過ぎ行く時を眠り続けた。腹の子へと禁術をかけ、そやつを人間として生きさせる為に」
静寂が包んだ。
ウタは、サヤのおっかあは紅覇のことを愛していた。
そのときもし羅生門が一族を殺して居なかったとしたら。
そしたらウタと紅覇は───…
「その禁術は人間になれる代わりに大きな代償を払わなければならない」
「代償…?」
「本来はとてつもない妖力の持ち主の命を生け贄にするのだが。生憎そのとき一族の生き残りはウタと腹の子のみ。
それは物理的にも出来ないことだった」
羅生門は空を仰ぐ。
お前を見た瞬間にわかった───男はサヤを見つめ、続けた。
「己の妖力と寿命、そして娘の“声”を犠牲にしたのだと」
妖怪ならば何百、何千、そして下手すれば何万、何光年と生きてゆける。
それでもおっかあは野盗に殺された。
もし妖怪ならばそんな簡単に殺されやしない。
それでもウタは、それを失ってまでも娘を人間にした。
「…どうしてそこまで…」
「妖怪だからこそ忌み嫌われ、人間と分かり合えない。そうして生きる辛さを知っているからだろう。
そして、願っていたからじゃないのか」
「願っていた…?」
「いつか、貴様と出会って欲しいと───」
羅生門が見つめた先、そこには唇の端から血を流す男の姿。
かつて母が愛したという男の姿。