時には風になって、花になって。
「ここに座ってお話してたの?」
「…あぁ」
日食が来るまで、青年と少女はそれまで行っていた妖怪駆除へは一切出向かなかった。
それが少女の願いだったから。
2人が今まで見た景色をもう1度見たい───、そんな健気な願いを叶えてやれることは紅覇には簡単だった。
そして最終日、立ち止まった場所は人目の避けられる大きな木の上。
「紅覇、…おっかあはどんな人だった?」
まさかこの場所に再び来ることになろうとは。
人目は避けられるが木の上からは人間の村が覗ける。
そんな場所が、かつての男女が気に入っていた特等席。
「…忘れた」
「じゃあ聞き方を変える。…ウタはどんな女性だった?」
「忘れたと言っているだろう」
「うそ、忘れてない」
言葉が話せる少女には未だに違和感があった。
全部わかっている、と見透かされているような瞳。
それでも黙り込む紅覇。
「紅覇はちゃんと覚えてるよ。だって優しいもん」
ピーーーッ!!
サヤは笛を鳴らした。
その音は震えている。