時には風になって、花になって。
「小娘が人として生きると決めたならば、本来こんなもの握り潰すつもりだったのだが」
「やめろ、」
咄嗟に言葉が出ていた。
そんなものをわかっていたように、男は目を細めた。
「…それがお前の本心ではないのか?」
サヤが人として全うすることを本当に覚悟したとしても。
それでも、どちらでも選べる選択肢がこの炎さえあれば残るということだ。
「我は貴様を許したわけではないぞ紅覇。だがお前は破門の身。
この一族に縛られないことを選んだのは貴様だろう」
殺せないと思った。
そうだ、私は。
どんなにこの男を憎もうと、それでも殺したくはなかったからこの場所を出ようと決めたのだ。
その炎はスッと紅覇へ渡された。
「…言ったでしょう、鬼と人間は分かり合えると。私の言った通りでしたね…父上」
青年は子供のように笑った。
「…生意気な奴め」
そこに立つのは覇道に生きる妖怪ではなく。
親1人、子1人。
どこにでもいる、人間と何ら変わらない親と子であった。