時には風になって、花になって。
(サヤ、幸せだよ)
口をパクパクとさせても紅覇のようには伝わらない。
だから和紙に墨で字を書いた。
昔、小さな頃に母親に字を教えられた教訓が今になって生きている。
“毎日頑張って働くよ。それでいつかはお金を貯めて、1人で暮らすの”
長松の店は村の休憩処だった。
長旅の旅人がよく腰を下ろす、そんな店。
だからこそサヤは毎日たくさんの人と出会う。
決して会話を交えられなくとも目で見て微笑んで、そうすれば同じように笑顔を返してくれるから。
そんな彼等に甘味やお茶を出すのがサヤの仕事であった。
「いいのよ、サヤ。あんたはずっとここに居ても。───家族なんだから」
全く、誰かさんはどこにいるのやら…と、長松はまるで弟へと投げ掛けるような優しい声色で空に放った。
その相手が誰かなんてサヤが一番に知っている。
だから少女は静かに目を伏せた。
「ごめんサヤ、ずっと黙っていようかとも迷ったんだけど…」