時には風になって、花になって。
じっと見つめた水面が揺らいでいる。
ポタポタと地面を濡らしていくのは、己の瞳から流れる雫だった。
(っ、っ…、)
ズッ、ズッ、
鼻水を啜る音だけは響いてくれてしまう。
音を出せないサヤが唯一出せる音だった。
だからいつも紅覇には暗闇の中だとしても見破られてしまったのかなぁ。
「本当は会いたいんじゃないのか。本当は、昔のように紅覇さんと一緒に居たいんじゃないのか」
だってこの場所で会ってからオレはお前の笑った顔を見れてないよ───…
「オレ、紅覇さんと居るときのお前の笑った顔がすっごく好きだったんだ。…可愛かったから」
縁は立ち上がった。
けれど次にサヤへと向き直った顔は、彼にしては珍しくも怒っているようで。
「でも今のお前はすっごい不細工だ!!」
(…え)
「こんなこと言いたくないけどな!!はっきり言って今のサヤは醜女(しこめ)だぞ!!」
半ば八つ当たりをするように放って。
そして水牛の世話をしなきゃと、サヤの元を離れてゆく。