時には風になって、花になって。




妖怪に育てられた女の子なんて、どこ探してもそんな話は絶対にないから。

サヤがどんなにお婆ちゃんになって、いつか自分のことも紅覇のことも忘れちゃったとしても。


必ずその思い出だけは、ふとした瞬間に思い出すんだ。

例えばこうしてキラキラと流れる川を見て。

高く青い空を見て。
夜の月が反射する大きな大きな海を見て。



(必ずサヤは思い出すよ。紅覇に抱っこしてもらったこと、紅覇と一緒に空を飛んだこと、笑って泣いて、毎日楽しかったこと)



何百年、何千年経って、紅覇がいつか本当に1人になっても。

それでもサヤはずっと生きてる。

2人で歩いて見た景色の中の植物や海になって生きてる。



(サヤは、それくらい紅覇が大好きなんだよ)



ピーーーッ!!


そうして何度もこうして鳴らすから。



「……長過ぎだ」



うん、でもきっとあなたは読み取ってくれているだろうから。


震えた声で去っていく金色の髪が、一瞬だけ真紅色に見えた。



< 152 / 180 >

この作品をシェア

pagetop