時には風になって、花になって。
妖怪に育てられた女の子なんて、どこ探してもそんな話は絶対にないから。
サヤがどんなにお婆ちゃんになって、いつか自分のことも紅覇のことも忘れちゃったとしても。
必ずその思い出だけは、ふとした瞬間に思い出すんだ。
例えばこうしてキラキラと流れる川を見て。
高く青い空を見て。
夜の月が反射する大きな大きな海を見て。
(必ずサヤは思い出すよ。紅覇に抱っこしてもらったこと、紅覇と一緒に空を飛んだこと、笑って泣いて、毎日楽しかったこと)
何百年、何千年経って、紅覇がいつか本当に1人になっても。
それでもサヤはずっと生きてる。
2人で歩いて見た景色の中の植物や海になって生きてる。
(サヤは、それくらい紅覇が大好きなんだよ)
ピーーーッ!!
そうして何度もこうして鳴らすから。
「……長過ぎだ」
うん、でもきっとあなたは読み取ってくれているだろうから。
震えた声で去っていく金色の髪が、一瞬だけ真紅色に見えた。