時には風になって、花になって。
人間の世で、人間として生きるお前の傍にずっと居たのだろう。
それは過去の私が一番に望んでいたことだ。
───だが。
「そうなっていたら…私は私が知るサヤとは出会えていなかった」
声が出ないサヤを知らなかった。
孤児として生きて、1人の憐れな鬼に拾われ、あんなにも強く生きて笑う少女を知らなかっただろう。
でもそれと同時に、あいつには母親の温もりを与えてあげられた。
お前が人間でもそうじゃなくとも世に言う“普通”として生きさせてやれた。
「…私は、サヤの話ばかりしているな」
お前の墓の前だというのに。
───許せ、ウタ。
「今の私は…私の知るサヤを知らぬ未来の方が怖いと思ってしまっている」
いや、許さなくていい。
それでも確かに過去の私はお前を好いていた。
お前と生きたいと願っていた。
それだけは真実だ。
「ウタ、───…私はお前を愛していた」